東京高等裁判所 平成9年(ネ)5947号 判決 1998年6月24日
東京都千代田区飯田橋四丁目五番四号
控訴人
ジャパン スチールス インターナショナル株式会社
右代表者代表取締役
與那原好宏
右訴訟代理人弁護士
松枝迪夫
右輔佐人弁理士
山本彰司
群馬県前橋市清野町一六〇番地の三
被控訴人
綜建産業株式会社
右代表者代表取締役
萩原博夫
右訴訟代理人弁護士
岩崎茂雄
右輔佐人弁理士
羽鳥亘
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の物件の製造、販売及び使用をしてはならない。
3 被控訴人は、控訴人に対し、金四八六〇万円及びこれに対する平成七年八月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
5 第3項につき仮執行宣言
二 被控訴人
主文と同旨
第二 当事者の主張
当事者の主張の要点は、以下に付加するほかは、原判決事実摘示中の「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人
1 直接侵害について
被告意匠は、手摺柱起立部を備え、その具体的高さが指定されているわけではなく、L字形をなしていることは明らかであるから、その手摺柱起立部が本件登録意匠の手摺柱起立部より短くとも、足場板用枠の全体的観察においては、類似するといわざるを得ない。
また、被告意匠は、手摺柱起立部に必ず手摺柱を起立して使用することを予定しているのであり、もし手摺柱を立てないで使われる例が偶然あったとしても、それは本来の用途ではないというだけであるから、手摺柱起立部に手摺柱を起立した状態で比較すべきことは、常識からみて当然である。
さらに、原判決は、被告意匠と本件登録意匠との比較のみを行って、非類似と判断し、被告意匠と構成態様が共通する本件類似意匠二及び三との比較を行っていない。本件類似意匠二及び三が、被告意匠に極めて類似していることは、一見して明らかである。
2 間接侵害について
被告製品は、それ自体に手摺柱起立部を備えた製品であり、その用法としては、必ずポールを立てて使用するものであるところ、原判決は、<1>単に手摺柱を立て、それに横手摺のパイプを連結する場合、<2>単なる丸太棒代わりに足場板の下敷きの土台又は支えの丸太棒(枕パイプともいう。)として使用する場合、<3>ラージテッスルという商品(直立のポールとそれに横手摺を連結したもの)の直立のポール部を手摺柱起立部に嵌め込んで使用する場合、の三通りのうち、<1>の場合のみならば間接侵害の可能性を論議できるが、<2>と<3>の実例があるので間接侵害が成立しないとする。
しかし、<2>としての使用は、普通の丸太棒を用いれば目的の達成として十分であり、被告製品のような起立部を備えた複雑で従って高価なものを使用する理由はないから、本来の合理的使用とはいえない。<3>のラージテッスルは、労働者の安全のため直立のポール部に水平の横手摺が予め付けられているだけのものである。被告製品の手摺柱起立部にポールを立てたら、本件登録意匠と類似の形態となるのであり、そのポールがラージテッスルという横手摺部分を上部に持っているか否かは関係がないから、原判決は、基本的構成要素の捉え方を誤認している。そもそも、ラージテッスルのリース料は高価であり、普通の業者は被告製品と一緒にリースすることはあり得ないのである。
二 被控訴人
1 直接侵害について
被告意匠は、側面視においてL字形であるのに対し、本件登録意匠のそれはキセル型であるから、両者は異なる美感を与えるものであり、両意匠は、全体的観察において非類似である。
また、直接侵害の成否を考える際は、原判決の判示のとおり、現実の意匠として比較すべきであり、現実に手摺柱が起立されていない被告意匠の基本的構成態様がキセル型である以上、L字形の基本的構成態様である本件登録意匠と相違することは明らかである。
さらに、本件類似意匠二及び三の出願時に、既に「他人の公知意匠」となっていた被告意匠が存在していたにもかかわらず、控訴人の類似意匠が登録されたこと自体が、被告意匠と本件登録意匠とが非類似であることを、特許庁が認定したことに他ならない。
2 間接侵害について
被告製品は、必ずポールを立てて使用するものではなく、現実に取付けられる手摺柱は、サイズや形状等に制限がなく、その物品の性質から考えても、特定の形状に限定されるものではないから、間接侵害にも該当しない。
また、被告製品は、原判決認定のとおり、短棒、長棒のラージテッスルを立てた状態及びこれらの棒を立てないそのままの状態でも、使用されている。
さらに、短棒のラージテッスルを立てた状態(図面B意匠)では、正面視の全体はほぼ逆F字形状をなしており、長棒のラージテッスルを立てた状態(図面C意匠)では、正面視の全体は片足のない鳥居形状をなしているから、いずれも本件登録意匠とは非類似であることが明らかである。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は、当審における主張について、項を改めて説示するほか、原判決の「理由」欄と同じであるから、これを引用する。
二 当審における主張について
1 控訴人は、被告意匠の手摺柱起立部が本件登録意匠の手摺柱起立部より短くとも、足場板用枠の全体的観察においては、類似するといわざるを得ないし、また、被告意匠において手摺柱を立てないで使用することは本来の用途ではないので、手摺柱を起立した状態で比較すべき旨主張するが、その主張を採用することができないことは、原判決説示のとおりである。
さらに、控訴人は、本件類似意匠二及び三が、被告意匠に極めて類似する旨主張するが、被告意匠が本件登録意匠に類似していない以上、仮に、被告意匠が本件類似意匠二又は三に類似するとしても、本件意匠権を侵害したことにはならないので、控訴人の主張を採用することはできない。
2 控訴人は、間接侵害の成立についても主張しているが、被告製品が、本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物に当たると認めることができないことは、原判決説示のとおりであるので、控訴人のこの点の主張も採用することはできない。
三 以上によれば、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六七条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)